Moon 月に囚われた男


主演サム・ロックウェル
監督ダンカン・ジョーンズ
2009年 イギリス
鑑賞 5月から6月にかけてのいずれかの時期

なんというのか、SFサスペンス?


月での孤独な任務(燃料採掘会社の月面基地係)を契約した男が、小さなトラブルの積み重ねの中から、隠された秘密を発見していく物語。

宇宙空間で一人、あるいは特殊な環境で一人ぼっちの人間が陥る罠というか、そういう類型のドラマ。落ちは、こういうものか、と少し驚いたが、まぁ、十二分にあり得る物語。

アメリカ人の何割かがもつ、大企業への不信感を下敷きに考えれば、こういうストーリーも出来るわいな、というお話。さらにいえば、製作はイギリスで、かつての植民地省の役人の感覚ってこうだったんじゃなかろうか、とか思ってしまう。

日本のように、帝国主義時代の終わりにむりやり植民地経営に乗り出した国とは違い、イギリスの400年間にわたる洗練されれた植民地経営と、その歯車たる人間のあり方、というか。
デリーのコロニアル風のホテルの芝生の上で優雅にお茶をしている欧米風の皆さんと、彼らに給仕しているホテルマンの姿を見たのを想い出した。もちろん、独立前とは構図が違うのは当然なのだろうが、400年間変わらない光景を見た気がした。さらにいえば、こちらにいる日本人の集団は、暑いさなかに律儀な格好(ネクタイとか、スーツとか)で、あちらは涼しげな風情。そういう格好でなければ、あの熱暑の国では生きていけないだろう事も事実。それにひきかえ、我々は、というのも事実。


で、この月世界で思ったのは、そういう優雅な植民地経営の拠点で優雅な暮らしが出来る人ではなく、本国から遠く離れた植民地の、さらに辺境にある事務所の係員の生活。

こういうものだったのではないのだろうか。

遠く離れた本国に居る家族を思い、まだ見ぬ子を思い、一日一日を数えながら、本国というか家族の元に戻る日を待つ毎日。

で、物語の後半には残酷な仕掛けが見えてくる。

この非道さというのは、なんだろう、日本人には物語に出来ないのではなかろうか、と思う。実際にあるのだろうか?こういう舞台回しの物語。

これぐらいの割り切りが出来ないと、あの国のあのシステムでの出世・金儲けは出来ないのだろうなぁと、昔を振り返りシミジミ考える。

似た物語で、もう少しまともな話しは、エディ・マーフィーダン・エイクロイドの『大逆転』だろう。あれも結構酷い話しだが、人一人の人生をもてあそぶという意味に置いては、同じ文脈上にあると思う。

『アーロン収容所』に描かれた「家畜の群れの管理に長けた民族」というものの持つ基本的な立場というのだろうか。

ボランティアなどで示す人に対するヒューマンな考え方と、それと同居するエコノミカルな考え方。まぁ、自分らがエコノミカルな動物であるということを強く認識しているからこそ、社会貢献とかを社会として強く志向するのだろうが。

そういう物を考えさせられた。


と、監督がダンカン・ジョーンズというのに驚いた。デビッド・ボウイの息子とは! あの人のDNAを継いでいるなら、ご自分が主演できるのでは、とも思うが。

ツタヤから、
たった一人で月に3年間滞在することになった男が、やがて不可解な現象に巻き込まれていくさまをミステリアスに描いた本格SFサスペンス。主演はサム・ロックウェル。監督はデヴィッド・ボウイの息子でこれが長編デビューの新鋭ダンカン・ジョーンズ。巨大燃料生産会社と契約し、月でたった一人の仕事に従事する宇宙飛行士のサム・ベル。人工知能を搭載したロボット、ガーティを相棒に、月でエネルギー源ヘリウム3を抽出・精製し地球へ送る単調な毎日を送っていた。唯一の慰めだったTV電話も交信不能となってしまい、ますます孤独感に苛まれていく。そんな中、3年の任期終了まであと2週間となる。肉体的、精神的にも、いよいよ限界を感じつつあるサムだったが…。

☆☆☆ーー レンタルでも十分。500円ぐらいか。